バイオリンという出会いの場

インタビューアイキャッチ画像vol.3

2017年、オルフェ銀座は何をする?

姫野:年が明けて、2017年になりましたね。今年も結月さんといろいろなお話をしたいと思います。

結月:そうですね。話しているうちにいろいろなアイデアも出てくるし、話すことはいいことです。

姫野:ところで2017年のオルフェ銀座の意気込みみたいなものはありますか?

結月:去年はマロオケをサントリーホールでやりましたからね。国内のトップ奏者がN響のコンマス、篠崎史紀さんのもとに集まってモーツァルトの交響曲を6つやったというコンサートでした。とにかく規模が大きかったので、昨年はマロオケのことしか心に残ってないですね。今年はどうしようかな…

姫野:コンサートは企画されないんですか?

結月:それ、よく訊かれるんですよ。マロオケの前は、王子ホールで篠崎史紀さんにブラームスのソナタを全曲やっていただいたし、その前は広島交響楽団コンサートマスターの佐久間聡一さんで毎年コンサートをしてきましたから。でも、今年は予定ないですね。

姫野:来年はありますか?

結月:まだ確約できませんが、ひとつアイデアはあります。こんなコンサートをやったらおもしろいなっていう。頭の中では概ね具体的にできあがっています。ただ、今年は着物のほうで大きなイベントを目論んでいるので、来年コンサートをやるための準備をそれと同時進行でできるかはわからないですね。

たくさんのひとに会いたい!

姫野:では、オルフェ銀座を今年はこうしたいなってありますか?

結月:やっぱり、たくさんのひとに会いたいですよね。たくさんのお客さんに来てほしいし、たくさんの生徒さんも来てほしい。そして、ここがいい出会いの場になればと思います。もちろん、弦楽器販売という店であるんですが、モノを売ることだけを目的にするのではなく、モノを通じて出会えるのがいいですよね。通販では得られない出会いです。

姫野:出会いというのは、結月さんとの出会い?

結月:まあ、お客さんから見ればそうに違いないですが、わたしから見ても出会いなんです。ひとというのは十人十色なので、それぞれに個性があります。つまり、すべてのひとに自分以外の何かがあるわけで、自分にないものに出会えるのっておもしろいですよ。

姫野:ひとと会う醍醐味って、そこですよね。

結月:バイオリンを習いに来ているひとは、わたしと出会うことによってバイオリンという自分になかったものに触れることができる。そして、クラシック音楽の話とかも。人間って、新しいものが好きなんですよ。新しいもの、それはつまり今までの自分にはなかったことです。それをわたしがどれだけ提供できているかはわかりませんが、今年だけの話でなく、ずっと新たなものを提供できるようにしたいと思います。それがなくなれば、飽きられてしまいますから。

姫野:でも、ずっと新たなものを提供し続けるって、大変ですよね?

結月:好奇心があれば、とりわけ大変でもないですよ。わたし自身が飽きっぽいので、自分がやってきたものもある程度達観したら飽きるんです。そしたら、また新しいことをやる。それはやるつもりでやるのではなく、自然に興味がわいて、やりたくなっちゃうんですよ。なので、今のところ、提供できるものが枯渇するという不安はないですね。

姫野:好奇心がないひともいますよね。

結月:好奇心がないのもそのひとのキャラなのでいいんじゃないですか。わたしは自分の好奇心に興味があるので、他人にそれがあろうがなかろうがあまり気にしません。ただし、自分自身はマンネリにはなりたくない。マンネリになると人間は老けるし、保守的になりますから。

姫野:それは言えてます。

毎年、若返る!?

結月:わたしは年々、若返っているんです。普通は一年経つと一歳、年を取りますが、わたしは毎年一歳若返っています。年を重ねるっていう気持ちはまったくないですね。自分が古くなったらつまらないので、自分にとって新しいことをどんどんやりたいんです。新しいスタートラインに立つのは最低でもゼロ地点で、でも新しいことは知らないことばかりだから、実際にはマイナススタート。だから、若返るんですよ。

姫野:経験値を高めて、次のことをやるっていうのがスタンダードだと思いますが、結月さんの場合は何だか違いますね。

csimg_1656結月:過去の経験を土台にすると、その延長のことしかできないのでフレッシュな試みはできません。もちろん、過去の経験はわたしの場合もどこかで生きてはいるでしょうが、それを土台にはしたくないですね。終わったこととして処理済みの経験です、そんなものは。

姫野:なるほど。確かに新たな好奇心を満たすには過去にこだわっていてはできません。

結月:そんな若返り思考の中でひとに会うって、自分が変わるチャンスでもありますよね。このひとにあって自分はこう変わったっていうの、ありませんか?

姫野:よくあります。ライターという職業はいろいろなひとに会ってインタビューするので、影響は受けやすいです。

結月:悪い方向に変わってしまうのはよくないですが、いい方向、というより、おもしろい方向に自分が変わるのって、素敵だと思うんですよね。昨日の自分より今日の自分がおもしろくなっているという実感。だから、わたしみたいな変な人間がいい方向にはひとを変えるのは無理だと思いますが、おもしろい方向には変えられるんじゃないかって。ときに悪い影響を与えてしまっていることもあるかもしれませんけれど。

姫野:いい悪いを判別するのは難しいですよね。

結月:ともかく、オルフェ銀座に行ったら、なんかおもしろくなってきたと感じてもらえるのが理想ですね。みんな、どう思っているか、知りませんが。

姫野:でも、好奇心があるひとのそばにいると、ワクワクしてきます。

教えるほうも影響を受ける

結月:実はわたしのほうもバイオリンの生徒さんたちと長い付き合いになったりして、生徒さんからいろんな影響を受けているんです。

姫野:それはどんな?

結月:単なる雑談や馬鹿話の中にそんな考え方や見方があるんだっていう自分にない発見をすることはよくありますし、「これ、おいしいですよ」ってもらったお菓子やケーキが本当においしくて、スイーツは好きだけど、自分では探求しないわたしにとってはとても新鮮な情報なんです。なるほど、こんなものがこの世にあったんだっていうちょっとした驚き。あと、よく映画を一緒に観に行く生徒さんがいるんですが、彼女が案内してくれた六本木のイラン料理店はおもしろかった。料理がおいしいのはもちろん、イラン料理なんて初めて見たので、好奇心がくすぐられるんです。店員はみんなイラン人ばかりで、ウェイトレスが千夜一夜物語のシェヘラザードみたいなんですよね。そしたら、たちまちイランに行ってみたくなったんです。自分がまったく知らない国のひとびとが、どんな生活をして、どんな食事をして、どんな文化の中で生きているかって、すごく興味があります。まだイランには行っていませんが、イラン料理店に連れて行ってもらったことで、わたしの中にイランという国が行ってみたい場所として加わりました。その思いはときめきとなって、早死にはできないなとか、旅費を稼ぐために仕事頑張ろうとか、プラスのエネルギーに変換されるんですよ。

姫野:お菓子やケーキ、ちょっとしたレストランもひとと出会うことによって自分の世界が広がるってことですね?

結月:そうです。自分の世界って、結構狭いものなんです。そして同時に他者は自分とはまったく異なる世界を持っています。異なる世界に接しないと自分の世界は広がりません。だから、マイワールドだけのマンネリは駄目なんです。だって、マンネリって新しい情報を仕入れようとしない行為だから。

姫野:確かに。

結月:そう言えば、この間、生徒さんから沖縄のラー油をもらったんですよ。それがなかなかの激辛で、激辛好みのわたしにぴったりのテイストで、しかもおいしい。わたしは家では中国のラー油調味料みたいなものをずっと使っているんですが、水餃子を食べるときに沖縄のラー油を使ってみたら、これがまたおいしかった。おかげで水餃子を味わうレパートリーが増えました。これもマンネリからの脱却ですよ。でも、そのラー油の情報は、その生徒さんに出会わなければ得られなかったものです。ラー油ひとつとっても、食生活が変わったりする。初めてのものって、日常のものでも楽しめます。だから、そんな出会いがあればあるほど、おもしろいですよね。

人間関係はネタとおもしろさ

姫野:バイオリンとは関係ないところも楽しめる?

結月:それがあるから、人間関係っておもしろくて、長く続くんじゃないですかね。その逆を言えば、そういうネタがないひとって一緒にいてもおもしろくないですよね。例えば、今、結婚しても半分近くのひとが離婚しているんです、統計では。それって理由はいろいろでしょうが、根底には夫婦生活のマンネリがあると思うんですよね。変化のないマンネリ状態のところに亭主が浮気したとか、そういったことが起爆剤になり、マンネリという積もり積もった火薬が爆発する。マンネリというネタ不足のつまらなさが一番危ないんです。

姫野:趣味を持つって、マンネリをどうにかしたいっていう願望からでしょうね。

結月:そうです。日々の仕事、それが会社員だったら、会社に行くのがウザったい上にマンネリで、辞めたら生活できないから嫌でも続けなければならない。終わりがないマンネリですよ。だから、仕事以外の何かをやってみたくなる。

姫野:それがバイオリンだったりするわけですね。

結月:ええ。そして、それはおもしろいものでなければなりません。バイオリンを正しくきっちりと技術的に弾けるようになるだけじゃ、おもしろくないですよ。そんなのは今ではロボットでもできますから。そうじゃなくて、バイオリンで自分なりの音楽を描いてみたり、バイオリンをきっかけにわたしみたいな人間に出会って、バイオリン以外のこともおもしろく感じて、バイオリンをやる意義が出て来る。だからこそ、わたしはずっと世間とはズレまくった変質者でい続けたいんですよ。一般とは違った感性、常識は参考にしない、今まで見たことがないものをやってみたい、そんな姿勢に触れることでオルフェ銀座に来ておもしろくなる。そういうのがいいですよね。そして、同時にわたしも来てくださる方から、影響を受ける。

姫野:相乗効果ですね。

結月:はい。知らない世界が交流し合うことで起きる摩擦熱みたいにホットなものがおもしろさですよ。

姫野:おもしろさは熱いもの!?

結月:そういうことです。

(インタビュー・文 姫野哲)

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