コンサートをプロデュースする話

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今までのコンサート

姫野:結月さんは楽器販売とバイオリンレッスンだけでなく、コンサートのプロデュースもされているので、今日はそのことをお尋ねしたいと思います。前回も少しお話しましたが、コンサートは昨年、サントリーホールで「篠崎史紀のモーツァルト6大交響曲演奏会 マロオケ2016」というものを企画、主催されたんですよね?

結月:はい。モーツァルトの交響曲を一日で6つ演奏するという規格外のコンサートでした。

seyomote_0104_small_ol_%e7%a2%ba%e8%aa%8d%e7%94%a8姫野:そして、一昨年は同じく篠崎史紀さんでブラームスのバイオリンソナタ全曲。その前はずっと広島交響楽団コンサートマスターの佐久間聡一さんでやっていらしたんですよね?

結月:そうです。佐久間さんとはもう長い付き合いになります。最初のコンサートがベートーヴェンのクロイツェルソナタ。そのあとは確かシベリウスのバイオリン協奏曲をやって、チャイコフスキーの協奏曲もやりましたね。モーツァルトの第5番もやりましたよ。

姫野:その他には?

結月:いろんな曲をやったので全部はすぐに思い出せませんが、コダーイのバイオリンとチェロの二重奏、それからラヴェルの同じくバイオリンとチェロの二重奏。チェロは玉川克さんでした。そのときは、バッハの無伴奏をバイオリンとチェロ、それぞれでやりました。あとは彼らが組んでいるカルテットでモーツァルトのディヴェルティメント、ベートーヴェンのラズモフスキー。バルトークもやりました。そのカルテットのメンバーは佐久間さんと玉川さん、NHK交響楽団のバイオリン奏者、三又治彦さん、そして同じくN響のビオラ奏者、御法川雄矢さんの4人です。

姫野:豪華なメンバーですね!

結月:そのメンバーでバルトークの弦楽四重奏第4番をやりましたね。強烈に難しい曲で、彼らもあの曲を演奏するのはかなり大変だったと思いますが、すばらしい演奏でした。そう言えば、佐久間さんのソロでバルトークの無伴奏もやりました。

st佐久間聡一photo姫野:難しい曲なんでしょうね。

結月:バルトークがバイオリニスト、メニューインのために書いた曲ですが、演奏技術も音楽性もすべてが難しい曲です。あんな曲、作曲するほうもするほうですが、弾くほうも弾くほうだなって思うくらい。佐久間さんも当時、あの無伴奏を演奏するのが初めてで、練習していて今まで弾いた中で一番難しい曲だった言っていましたよ。

曲目はどう決める?

姫野:そういったコンサートの曲目はどうやって決めるんですか? 演奏者の希望ですか?

結月:基本的にわたしがやりたい曲です。この曲、コンサートでやりたいので、弾いてほしいって感じのオーダーなので、結構メチャクチャですね。演奏者の都合はあまり考えないです。だからモーツァルトの6大交響曲も演奏者の体力限界までのものでしたし、カルテットのときもモーツァルトをやってベートーヴェンをやって、最後にバルトークですから。わたしが聴きたい、やりたい曲は全部やるみたいなスタンスなんです。

姫野:すごい話ですね…

結月:もちろん、さすがにこれは無理だなという本当の限界点はわたしにもわかるので、まあギリギリのところまでですかね、演奏者にとって。わたしが芸術至上主義なので、これだけの曲目をやったら芸術的にすごいコンサートになると思ったら、それを実現したくなる。逆に先に演奏者の都合なんて気にかけていたら迫力のあるコンサートなんてできません。無難なものしかできないですよね。だから、まずは自分がやりたいコンサート、どんな感動を生み出したいのかっていう最大限のものから進めます。そして、さすがに限界を超えるというものが出たら現実的なことを考えます。すると企画は最低でも100%膨張した状態でいられる。

姫野:無難なものはおもしろくない?

結月:無難なものは何の魅力もないですね。コンサートはいろいろなところでやられていますが、ほとんどが無難なスケールのものばかりだと思うんですよ。定期演奏会なんて、定期だからもうフォーマットができているという感じがします。そこにはいい演奏は生まれるかもしれないけれど、圧倒的な演奏は生まれにくいと思います。

姫野:なるほど。

結月:わたしは自分がやりたいと思ったコンサートしかやらないので、絶えずコンサートをやらなければならないプロオーケストラの事務局とか、音楽事務所とは考え方が違うんです。定期的にコンサートをするとなると、どうしてもリスクを減らそうとするし、惰性になってきますから。

姫野:確かにリスクを避ける企画はおもしろくないですね。安全運転になりすぎて、エッジがないというか…

結月:やっぱり型にはまらないってことが重要です。コンサートとはこういう曲順で、2時間以内に終わるものだとか、そういういつの間にかできている不文律のフォーマットみたいなものでは、圧倒的なものはできません。

鬼になる!?

姫野:でも、演奏者の都合を考えないとなると、結月さんが鬼みたいに思われるのではないですか…?

結月:う~ん、それはわからないですね。あまり気にしません、そういうことは。でも、演奏者の意向もちゃんと汲み取らないと共犯者になれないので、演奏者を無視しているという意味ではないです。だって、弾かないって言われたら、それで終わりなので。また自分の企画で主催するものだから責任重大ですよ。だから、このコンサートは曲がすごくて、それを演奏する奏者は最高だから、絶対に聴いてほしい!ってお客さんを集めます。なので、わたしの企画のコンサートはお客さんの意識がとても高いです。集中力が違いますよ。これは昨年のマロオケのときも奏者たちが言っていました。いつも演奏しているサントリーホールなのに、お客さんのステージへの集中力がとても高くて、客席から来るエネルギーが本当にすごかったと。そうなると、演奏者はそれに応えようとさらに演奏にエネルギーが入って、圧倒的な演奏になるんです。いいコンサートにするには、いいお客さんが必要なんです。タダの招待券をもらったお客さんばかりだと、聴くほうに気合が入っていないから、何というか、客席が緩いんですよ。寝てるひとが多かったり。

img_1656姫野:そういうものはステージからでもわかるんですか?

結月:よくわかりますね。演奏者はそれを敏感に感じ取ります。だから、お客さんの質が低いと、どうしても演奏に気合は入りません、当たり前ですが。なので、わたしはコンサートプロデュースの仕事は、このコンサートを聴きたい!という意識の高いお客さんを集めること、そしてお客さんの意識をいつも以上に高めることだと思います。ただ客席を埋めればいいというものでなく、音楽を最高のものにするには、最高のお客さんがいないと成立しないんです。

姫野:なるほど。

結月:ですから、企画段階で容赦しないで限界点ギリギリのものをやると決める。演奏者はそれに相応しい一流の奏者を選ぶ。そして、絶対に後悔はさせないから、コンサートに来てほしいとお客さんに訴えかける。最初に奏者の都合は考えないというのは、ギリギリまで追い詰めたいからです。「こんなこと、やりたいんだけど、できるか?」というアプローチをして、「できる」と答えてくれる奏者でやる。それがおもしろいんですよ。

姫野:ガチですね!

結月:だから、演奏者の都合は考えないという言い方をしましたが、わたしは演奏者のことを絶大に信頼しています。微塵たりとも疑わない。演奏は絶対に大丈夫だという自信を演奏者から得ています。今度はそれをお客さんに伝えるんです。そうすることで主催者、演奏者、そしてお客さんという三者が強力なトライアングルになってコンサートホールで響き合う。感動という名のバイブレーションが爆発的に発生する瞬間です。

姫野:マジでガチですね!

プロデュースという仕事

結月:もし演奏者がやりたい曲をやらせても、おそらくはいいコンサートにはならないです。

姫野:えっ、どうしてです?

結月:それは演奏者としての願望でしかないからです。自分が弾きたいっていう立場は、お客さんが聴いてどう感じるかがあまり入っていませんから。プロデュースって、客観的な視点がなくちゃいけなくて、どうしても演奏者は演奏の当事者だからプロデューサーの視点は乏しいんです。演奏者が弾きたい曲は自己満足で終わることが多い。

姫野:お客さんも音楽知識などのレベルアップをしなければならないということですか?

結月:そういうことでなくて、プロデュースさえ成功すれば、クラシック音楽をまったく知らないひとでも聴けば感動します。だって、コアなクラシックファンでもあまり聴かないようなマニアックなバルトークの四重奏をやったときも、うちのお客さんはバルトークなんて名前も知らないどころか、クラシックさえ馴染みのないひとたちだったのに、ものすごく感動していました。演奏者の魂とお客さんのハートをどうつなげて、それを共鳴させて感動を生み出せるか、それがプロデュースという仕事だと思うんです。

姫野:わかってきました。お客さんに提供するという上から目線ではなく、お客さんに体当たりするって感じですか?

結月:そんな感じです。音楽は聴いてくださるひとがいて成立するものなので、音楽がお客さんに対して上から目線ではいけません。ところがプロデューサーがお客さんに迎合すると、これまたおもしろいコンサートにはならない。お客さんが望みそうなものを考えるのは必要ですが、迎合しちゃいけません。合わせようと思っちゃいけないんです。それをやるとファミリーコンサートになってしまう。聴き心地はいいかもしれないけれど、今まで聴いたことも見たこともなかったようなものに接した爆裂な感動は生まれません。

姫野:挑戦ってことですか?

結月:そうです、それですよ。挑戦です。プロ奏者は技術的には上手いので、「こなす」こともできるんです。こなしてそれなりの演奏ができてしまうのがプロです。アマチュアとプロの差ってそこですよ。ところがプロには当然、こなした演奏って実は多いんですよ。でも、演奏者がその曲に、そのコンサートに体当たりで挑戦しようっていう気持ちになると、すばらしい演奏になります。その体当たり感はアマチュア的です。技術はプロ、魂はアマがいい。だから、すでに上手いプロ奏者でさえ挑戦したいと思えるようなコンサートを企画する。わたしがやりたいのはそういうものなんです。だから無難なものには興味ないんです。でも、そうしたほうがお客さんのためにもなります。お金を出してチケットを買って、こなしただけの演奏なんて聴かされたらたまらないですよ。わたしがやるコンサートは、それを聴いたら死んだあとも忘れないっていう感動を魂に刻み込むものです。

姫野:死んだあとも忘れない!?

結月:死ぬまで忘れないっていうものは普通にありますよね。そうでなく、死んであの世に行っても忘れないほど感動するコンサートです。

姫野:すごい発想です!

結月:人間が生きている価値っていろいろありますが、どれだけの感動をこの世で体験できたかって重要なんです。最高だなって思えた瞬間をいかにたくさん得ること、得られる生き方をしてあの世に行くというのが、わたしの人生観です。

姫野:結月さんのお話を聞いていたら、結月プロデュースのコンサートに行ってみたくなりました。でも、今年はやらないんですよね?

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姫野:伺いたいですね!

結月:いえ、まだ内緒ですが、でもそれはスケールが大きすぎて、実現させるとなるとかなり大変です。大変すぎて、妄想レベル。実現性は低いですが、やれればすごい。

姫野:でも、やるつもりですよね?

結月:今のところはやるつもりまではいってません。妄想ですから。ただ、昨年のマロオケでわたしが何よりも愛している曲、ジュピターで終えたので、モーツァルトもそれが最後の交響曲だったのだから、それで終えておくほうが美しいかなって気もあります。中途半端なことをやって、やっぱりあのジュピターには敵わないな、なんて思うのが嫌なんですよ。だから、やるからにはマロオケでやったジュピターに少なくとも匹敵するものでないとやる気はしません。

姫野:そうですか。でも楽しみにしています。

(文・インタビュー 姫野哲)

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