
グループレッスンでは上達しない!?
姫野:オルフェ銀座の大人向け初心者レッスンは、個人レッスンなんですよね?
結月:ええ。基本的に個人レッスンです。でも、お友だち同士であれば。2人同時にやっています。
姫野:いわゆるグループレッスンはやってないということですか?
結月:姫野さんが言っているのは、1レッスンで何人もまとめてレッスンするというタイプのことですよね? それはやってないんです。
姫野:どうしてです? 大きな音楽教室を見てみると、グループレッスンの募集をよく見ます。
結月:ズバリ言いまして、バイオリンはグループレッスンでは駄目です。弾けるようにはなりません。これは断言しますね。
姫野:断言ですか!
結月:はい。そういうレッスンって面識がないひとたちを十人近く集めてやると思うんですが、個人レッスンで丹念に教えて弾けるようになるバイオリンをグループでひとまとめにして弾けるようになるわけがないんです。だって、そこには楽譜が読めるひと、読めないひと、やる気満々なひと、暇つぶし程度に考えているひと、教わったことをしっかり自宅でおさらいすひと、しないひと、さらにセンスが良くてすぐ覚えるひととそうでないひと、などなどいろんなタイプのひとが混ざり合って、それを一括して教えるなんてどう考えても不可能です。
姫野:なるほど。それだけ差があれば、落ちこぼれるひとも出てくるでしょうね。
結月:ですから、そういうレッスンスタイルのところは、弾けるようになるかは別として、とりあえず教えましたよっていうだけでどんどん前に進むしかないです。個人の悪い癖を集中的に正すことができないので、悪い癖がさらに積み重なって大変ですよ。
姫野:それは恐ろしい。
結月:でも、大きな音楽教室だとグループレッスンは経営上、仕方がないところもあるでしょうね。だって、先生をバイトとして雇って給料を払い、また家賃や運営費、広告費も大きいので、ワンレッスン当たりひとりだけのレッスン料だと割に合わない。だから、ワンレッスンでたくさんのひとからレッスン代を集めるシステムにしないとやっていけないんです。あとはグループレッスンを設けることによって、お手軽に入会できて、みんなで楽しく弾きましょうっていう雰囲気を売りにすることができるので。
姫野:ひとりで弾くよりみんなで弾けば怖くないっていうか、安心っていうのはありそうです。
結月:最初はそう思うでしょうが、現実はそんなものでないです。だって、根本的にグループでは技能が身につかないから、楽しむ以前に弾けないので。どうやったって弾けないですよ。楽器にまぐれはありません。で、一番良くないのは、個人レッスンでしっかりと教えると弾けるようになるのが、グループだから結果弾けなくて、「やっぱりバイオリンって難しい楽器なんだ」って諦められることです。本当は弾けるものが、グループレッスンという環境ゆえに弾けないだけなのに。
姫野:グループに通っているひとは、個人レッスンの経験がないから、こんなものだと思うんでしょうね。比較対象がないからわからないっていうか。
結月:そうなんですよ。本当は弾ける能力があるのに、弾けないレッスン形式を選択しているから弾けない。どこで習うかというスタートさえ間違わなければ、今頃バリバリ弾けているのにっていうひと、かなりいますよ。
姫野:先生選びって大切ですよね。
そのひとに合った教え方を
結月:それにグループでは個人レッスンのようにどこがどう弾けないかをケアすることができないんですよ。
姫野:ひとりのできないひとに付き合っていたら、他の弾けるひとは困るでしょうからね。
結月:ですから、グループレッスンでは教えるほうも、あまりに出来の悪いひとは放置、というとひどいですが、ある程度の見切りをつけるしかないです。それはグループレッスンで教えている先生方はみんなわかっていると思います。
姫野:教えるほうも大変です。
結月:個人の癖やタイプっていろいろですから。バイオリンは共通でも人間は共通でないんです。音程感の個人差だってかなりのものだし、バランス感覚に優れているひともいれば、そうでなくて弓を真っ直ぐ弾けないひとだっていますしね。だから、バイオリンを弾けるようにするには、それぞれの個人に合った教え方をしなくてはなりません。バイオリンに限らず、個人に合ったやり方をすれば必ず伸びます。学校教育みたいに数十人をまとめて教えたら、落ちこぼれが出るのは当たり前なんですから。
姫野:すべてのひとを個人レッスンできないから、まとめて教えるのが学校ですものね。
結月:ええ。ただ、わたしの場合は、バイオリンを大人から始めたいっていうひとが弾けるようになって楽しんでもらうのが仕事であり、サービスなので、とりあえずひとを集めてグループでレッスンして、一応教えはしましたよっていうのが嫌なんですよ。だから個人レッスンにして、時間がかかってでもそのひとをバイオリンが弾けるようにしたいんです。
姫野:それだけ個人差があると、教え方も変えたりするんですよね? あと教えやすいひとや手間がかかるひと、いろいろなんでしょうね。
結月:はい。いろいろです。でも、それこそが個性なんです。音感がいいも悪いもすべて個性です。また音感は良くても、リズム感が悪いとかもあるし、その逆もある。きっちり弾けるけど、表現力が乏しいっていうひともいる。それらの個性を得意なところはもちろん伸ばして、不得意なところはそれを補う練習メニューを組めばいい。いずれにせよ、そのひとがバイオリンを弾けて、音楽を楽しめるようになるのが目的なので、その手間こそがおもしろいって思います。簡単に弾けちゃ、やってもおもしろくないです。
姫野:それ、わかります。克服することがあるからおもしろいんですよね。
結月:魚釣りでルアー釣りってあるますよね。
姫野:はい。ブラックバスなんかの。
結月:ブラックバスって、繁殖力が強いから日本全国に広がってものすごい数がいるわけですよ。あれだけたくさんいるのにルアーで釣ろうとしてもなかなか釣れない。一日頑張って一匹も釣れないなんて普通で、バスプロでさえ数匹しか釣れないのも珍しくないんです。でもあの魚、餌釣りだったらすぐに釣れるんですよ。ミミズとかエビで。
姫野:そうらしいですね。僕もルアーでは少しだけやったことがありますが、まったく駄目でした。
結月:かと言って、バス釣りを楽しむひとで餌釣りやろうなんてひとはほとんどいないんです。あくまでルアーでやりたがる。どうしてかって言うと、簡単に釣れないからこそ、やりたくなるんですよね。餌釣りで簡単に釣れたら、苦労がないからおもしろくないんです。
姫野:釣れないから今度こそと思って、また釣りに行きたいって思うんでしょうね。
結月:バイオリンも同じで、グループでちょこちょこって習って、すぐ弾けるようならつまらないですよ。それだったらそもそもプロは要らないです。でも釣りと同じく、ずっと釣れないのはおもしろくない。なので、しっかりと弾けるように個人レッスンで教えたいんですよね。もちろん、センスのいいひとはグループレッスンでそこそこ弾けるようになるひとはいると思いますよ。でも、それは確率としてすごく低い。とてつもなく低い。だから、わたしは最初からグループレッスンをやらないし、やるとしても友だち同士だけで、ワンレッスン2名くらいです。それ以上になると、いくら友だちと言っても、上達が遅いひとがいると間違いなく険悪になってきますから。
姫野:いい加減ちゃんと弾けよって感じでしょうか?
結月:そう思うひとは出てきますよね。みんな仲良く、和気あいあいなんてならないです。自分は自信がないからとりあえずグループで、なんて考えないほうがいいい。
姫野:そうかもしれませんね。
みんなで弾けると楽しい!
結月:でも、みんなでバイオリンを弾くのは楽しいっていうのはあります。だから、わたしのところでは合奏を年に二度ほどやっています。その合奏に向けて個人レッスンして曲を弾けるようにする。そしてみんなを集めて合奏をやる。そうすれば技術も身について、一緒に弾くことが楽しめますから。
姫野:弾けないとみんなといてもおもしろくないですよね。そうならないために個人レッスンで弾けるようにちゃんと教えるという結月さんの考え方がよくわかりました。
結月:銀座で個人レッスンをしてワンレッスン3000円ですから、自分で言うのもなんですが良心的ですよ。場所を考えたら、1万円でもおかしくないです。
姫野:そうですよね。それこそ、さっきのお話のようにワンレッスンをグループでまとめたほうが効率的ですものね。
結月:あとは、大人の初心者向けにやっているので、みんなお仕事があります。だから、通いたいときにいつでも予約できるようにしておかないとって思うんです。毎週何曜日の何時って決められると、仕事の都合で来られないときが出てきますから。個人レッスンでもそうやって時間を決めているところは多いし、ましてやグループレッスンでは他のひともいるわけだから時間は決めておかないとできません。初心者のグループレッスンでは一回レッスンに行けなかっただけで、即落ちこぼれますよ。だから、システム的にもいつでも通えるよう個人レッスンにしているというわけなんです。
姫野:そういうことでしたか。自分の都合に合わせて通えて、個人レッスン。そして合奏もできるのならいいですね。社会人にとってはうれしいと思いますよ。
結月:そう言っていただけると、わたしもうれしいです。
(インタビュー・文 姫野哲)
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