バイオリンで幸せになる!?

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幸せってどういうこと?

姫野:結月さんにバイオリン教室のことをまたお伺いしたいんですが、オルフェ銀座の入門者のためのレッスンって、キーワードが「楽しさ」と「幸せ」なんですよね?

結月:はい。そうです。

姫野:バイオリンを弾いたら楽しいっていうのは何となくわかるのですが、バイオリンを弾いて「幸せ」っていうのが意外でして。だって、そういうことを言う教室ってあまりないと思うんですよ。バイオリンに限らず習い事として。

結月:そうかもしれませんね。

姫野:ズバリ、どう幸せになるんですか?

結月:具体的に幸せがどういうものかはとても難しい問題です。それこそ本が一冊、書けてしまうほど。だって、幸せは何かって、古代ギリシアのアリストテレスから言われていて、今もはっきりと答えが出ないものですから。でも、言えることは、幸せって一種の心的な「状態」なんですよね。csimg_1656

姫野:心的な状態? やっぱり難しいです…

結月:幸せって、どちらかというと女性的なものなんですよ。男は女性ほど幸せを考えません。姫野さんにとって、幸せだなと感じるときってどんなときですか?

姫野:やっぱり仕事を終えて、ビール飲むときですかね。オヤジっぽいですが。

結月:もしビールを飲み過ぎたときはずっと幸せですか?

姫野:いえ、全然。二日酔いなんかしたら最悪です。そうでなくてもビールを飲んで幸せだと思うのは、最初の一杯くらいでしょうか。

結月:ですから、幸せってそれを幸せと感じる心的な状態なんですよ。でも、状態は常に変化します。なので、幸せを感じ続けることって無理なんです。

姫野:確かに。

結月:例えば、婚活といった結婚願望は以前より廃れてきたと思いますが、それでも女性の場合は結婚して幸せになりたいっていうひとが多いですね。でも結婚なんかで人間は幸せになれません。いえ、最終的に幸せだったと言える瞬間があるかもしれませんが… つまり夫婦生活のある結果をしみじみと感じたとき幸せという心的な状態にはなる。あとは結婚式でウェディングドレスを着たときなどでしょうか。でもそれは脱げば終わる。だから、幸せは持続性のないものなんです。

姫野:それは言えてますね。ぼくがビールを飲んでも幸せと感じるのは一杯を飲み干す短い時間だけです。

結月:幸せって、何かを達成したとき、何かが満たされたときといった最終形なんですよ、心の状態として。100%になったら幸せを感じるのだから、それ以上はもうないんです。

姫野:プロ野球選手だって、たとえ日本一になってもそのときの気分がずっと続いているわけでないのと同じですね。多分、数日後には来年のことを考えなくちゃいけないでしょうし。

結月:そういうことですよ。だから、幸せは瞬間的なものです。

バイオリンには正解がない!?

姫野:では、いわば儚いとも言えそうな幸せをどうしてバイオリンで感じられるんですか?

結月:まずバイオリンには終わりがないからです。つまり正解がないというか。

姫野:正解がない?

結月:バイオリンが、というより音楽には正解がないんです。例えばモーツァルトのバイオリン協奏曲第5番はこう弾かなければならないという正解はありません。それは明らかにモーツァルトとして間違いだ、といった弾き方はありますが、正解は無数にあるんです。だから、いまだにモーツァルトは演奏され続ける。歴代のバイオリニストたちがモーツァルトはこうじゃないか?と自分なりに表現していて、それゆえに同じ曲でもまったく同一の演奏はありません。その模索は今も続いていて、現役のバイオリニストたちが新たな演奏を生み出そうと挑戦しています。

姫野:なるほど、確かに正解がひとつだったら、それ以上探求する必要がなくなりますよね。

結月:はい。正解が無数であり、まだまだ未発見の正解があるからこそ、モーツァルトは死後200年以上経ってもまだ演奏されるんです。

姫野:でも、難しい話になってきました…

結月:たったひとつの理解だけでいいと思うんです。つまり、音楽に正解はないから、何度でも違った達成感を味わえる。

姫野:ううん… わかったようなわからないような…

結月:さきほど、幸せとは何かを達成したとき、何かが満たされたときといった最終形だと言いましたが、何かの曲に達成感を覚えたとしても、まだ他の弾き方があるんじゃないか、こんな弾き方はどうだろうって思うことによって、幸せはどんどん細胞分裂をして増えていくんですよ。

姫野:なるほど。

結月:たった一曲でもそうなのにバイオリンには数えきれないほどの名曲があります。それは一人の演奏家が弾き切れないほどの数です。もう幸せの宝庫ですよ。

姫野:ちょっとわかってきました。

日々の仕事に幸せはある?ない?

結月:皆さん、日々仕事をなさっていると思うのですが、大半は会社に勤務してのものです。会社の仕事で正解がなく、自分がどう表現するかという可能性が無限大の仕事ってありますか?

姫野:ほとんどないでしょうね… 会社に勤めてそれが自由にできるひとって、本当に一握りだと思います。

結月:会社の仕事には会社の目的があって、そのために仕事をします。ですから、そういった仕事はほとんど正解が決まっているんですよ。これをこのように作ってほしいだとか、売り上げを月商でいくらにするとか、この製品を販売するとか、やるべき内容が正解となっているのが仕事ですよね。

姫野:ぼくのライターという職業も記事を書くときはクライアントの意向を無視できないので、それこそ正解に沿ってしなければなりません。

結月:正解がある仕事をするのはまったく悪いことではなく、社会には必要なことです。でもひとりの人間として週に5日、会社に通っている間は、幸せを感じられるひとはほとんどいません。それどころか、会社に不満があったり、社内の人間関係が辛かったり、嫌な上司がいて我慢できなかったりと幸せとはかけ離れたもののほうが多いはずなんですよ。

姫野:実はぼくもそういう理由で会社を辞めて、フリーになったんです…

結月:となれば、幸せを感じられる可能性を見出せるのって、せいぜい週に2日くらいです。その2日間に観劇に行ったり、日帰り旅行に行ったりしますよね。そういうことはとても大切なことですが、バイオリンを弾くという趣味が観劇や旅行と異なるのは、自分で音を奏で、自分で演奏して感じられる能動的な幸せがあるところです。

姫野:能動的な幸せ?

sdsc_2151結月:はい。自分が弾いてこそ得られるものは観劇の感動とはレベルが違います。

姫野:確かに観劇は客席に座ってですから、受動的ですよね。

結月:自分で自分の音を創り上げていく作業。その先には名曲がたくさんあって、素敵な旋律が山ほどある。それを表現するって最高ですよ。その最高の気分が名曲を弾くたびに味わえ、そして正解はひとつではないという自由の中で自分の正解を探せる快感。ですから、弾きたい曲を目指し達成するたびに幸せが生まれ、新たな幸せを感じられる曲は弾き切れないほどある。そんなすばらしさって、日常の仕事にありますか?

姫野:会社で普通に働いているとあまり想像できません。よほどクリエイティヴな分野で成功しない限りは…

結月:バイオリンのプロもそうです。プロ奏者はギャラをもらって仕事をしますから、依頼がないと弾けないんですよ。弾く場がないんです。それに好きな曲をいつも弾けるわけではありません。決められた曲を仕事として弾くわけです。さらに演奏でミスできない責任は重大です。ということは、バイオリンを弾くことを幸せにつなげられるって、趣味でバイオリンを弾くひとの特権なんですよ。純粋な意味で音楽を楽しみ、負担なく弾いて幸せだなといつでも思える立場ってすばらしいですよ。

姫野:確かに!

結月:しかもバイオリンを触ったこともない初心者は、バイオリンを楽しむための真っ白な余白が一番大きいってことですよ。一方、プロ奏者って、そういう余白がどんどんなくなってきます。初心者だからこそ、未開拓の土地が目の前に広がっているわけですから、バイオリンを弾くことの幸せ度数はかなりのものです。

姫野:楽譜も読んだことがないってコンプレックスに思う方も多いと察しますが、結月さんの考えだと逆になりますね!

結月:そうです。楽譜を読んだことがないのに少しずつ読めるようになって、その音符に合わせて音を出せるようになる。これだけでもかなりの達成感ですよ。

姫野:達成感、すなわち幸せですよね。普通は未経験だと気負いしますが、そんな必要はないということですね!

この世に完璧な人間はいない!

結月:この世にすべてが完璧な人間なんていません。みんな、ひとりひとりが不完全な人間なんです。だからこそ、いろんなものに挑戦して、いろんな経験をして、できなかったことができるようになる喜びがちゃんとあるように生まれてきているんです。不完全というすばらしさ、そうした夢を悲観的に捉えるのは間違いですよ。

姫野:もし完璧だったら、やることなくなっちゃいますよね。

結月:そうです。完璧なんてつまらないですよ。退屈ですよ。できないことをやることで人間は達成感を味わい、幸せという心的状態になる。そしてバイオリンを通しての音楽は美的な旋律があふれ、それを自分で奏でられ、正解がひとつという制限もない。だから、幸せを何度も、しかもそれらはまったく同一でない、いつも違ったバリエーションの幸せを感じられるのがバイオリンです。そうした幸せは生活にあったほうがいいんですよ。なので、わたしはバイオリンという道具の弾き方を学ぶという考えより、自分が楽しく、幸せを感じられるためにバイオリンを弾けたほうがいいんじゃないかと思って教えています。だから、わたしのレッスンは他の教室に比べて風変わりなものかもしれませんね。

姫野:ビールを飲んだときが幸せと言った自分が情けなくなってきました。

結月:それはそれでいいんですよ。でも、バイオリンを弾くようになると、そういう瞬間消費型の幸せは求めなくなるかもですね。

姫野:確かにそうかも。

結月:でも、こんな難しそうなことを話しましたが、本当はもっと簡単なことなんですよ。

姫野:つまり?

結月:つまり、音楽は単純に楽しいものなんです。それをバイオリンで弾いたら素直に楽しくて、おもしろいんですよ。だから、幸せなんです。やればわかりますよ。

姫野:幸せの意味なんてどうでもいいことかもしれませんね。

結月:その通りです。どうでもいいんですよ、屁理屈なんて。幸せは理屈じゃないですから。もっと自然に、いつの間にか幸せになっているものですよ。

<インタビュー・文 姫野哲>

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