バイオリンを続けること

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続けることが才能

姫野:バイオリンを習い始めても、ずっと続けるっていうのは難しそうですね。

結月:そうですね。バイオリン教室をやっている知り合いの先生なんかも途中で辞めていくひとは少なくないっていつも言っています。

姫野:それはバイオリンっていう楽器が難しいからっていう理由でしょうか。思っていたように弾けないとギブアップするみたいな。

結月:それもなくはないと思うんですが、バイオリンに限らず、何かひとつのことをずっと続けることが稀なんじゃないですかね。人間って飽きも来ますし、仕事などの環境が変わって、バイオリンに集中できなくなってしまうことも珍しくないと思うんです。そもそもバイオリンを趣味で弾くという行為は、衣食住と違って生活には絶対的に必要とされていない部分なので。

姫野:確かにそうですよね。

csimg_1656結月:でも、人間って、同時に衣食住だけこなす生き方じゃ退屈するわけですよ。おもしろくないな、今の生活って思いますよね。

姫野:衣食住を維持するためだけに働くのも嫌です。

結月:そうなんです。だからこそ文化があるんですよ。ただし、生活の主役にはならないです。普通は。

姫野:文化を主役にできるのは芸術家とか、音楽で言えばプロ奏者とかですものね。

結月:そうなんです。だから、主役にならないものを、でも生活にとってあったほうがいいものって、どうしても地盤が弱いんです。おいしい食事には敵わない、みたいな。

姫野:食欲は根源的なものですものね。

結月:ええ。ですから、根源的なものでないバイオリンをずっと続けられることは、わたしはそれ自体が才能だと思うんですよ。

姫野:続けることが才能?

結月:ええ。もちろん、バイオリン教室を運営する立場としては、飽きないようにおもしろいテーマを提案していくことも大事なんですが、でも楽器ができるようになるって、基礎練習などとても地味なことをやらないとどうにもならないところがあります。見かけ倒しでおもしろそうなことをやっても、技術を身につけないと結局、おもしろいことなんて実感できないので、やっぱり地味なこともやんなきゃいけないです。それもちゃんとこなして、続けられるってことがすごい才能なんじゃないかなって、そう思います。

姫野:きっとバイオリンに求めていることも十人十色なんでしょうね。

結月:そうですね。漠然としたバイオリンのイメージで来るひとが多いです。クラシックもほとんど聞いたことはないけど、テレビで演奏を見て弾いてみたくなったとか。だから、弾いてみたい曲が特にないってひとも結構いますよ。なので、こちらからこんな曲が弾けるよ、弾けるようになりましたよって導いていくんです。

姫野:未体験を開拓する感じですね。

結月:はい。バイオリンは音楽の専門的な話が実はおもしろかったりするんです。どんな作曲家が、どんな曲を書いて、どんな演奏者がどんな演奏をしたとか、歴史というか物語ですね。それってすでにドラマなんですよ。だから、わたしは自ずとそういう話を生徒にしてますよ。そしたらただバイオリンを弾くだけでなくなってくる。ストーリーというかバックグラウンドを感じながら弾くとおもしろいですから。

音楽はハレンチ!

姫野:どこの教室もそういうレッスンなんですか?

結月:それは知りません。それぞれの教室のやり方はあると思うので。まあ、わたしは漫談家みたいなものですから。もしかしたら珍しいレッスンをしているかもしれません。ハレンチな話もしますし。

姫野:ハレンチ路線ですか!?

結月:音楽をやってるなんて、ハレンチばかりですよ。ハレンチだからおもしろい演奏ができるわけで。それがなければシンセサイザーに音を打ち込んだだけの演奏みたいになりますよ。だから、わたしが知る一流のプロ奏者はハレンチが多いです。一見まともそうでも、話し込んでいくととてつもなくハレンチだったりします。

姫野:やっぱり芸術ですね!

結月:バイオリンを習いに来るのは、普段会社に勤めているひとばかりなんですが、多分、会社の仕事ってハレンチにはできないじゃないですか?

姫野:そりゃ、そうです! まじめにやんないと。

結月:だったら、バイオリンを習うって会社の時間とは異なるものを求めたほうがいいでしょう? だからハレンチなほうがいいんです。ほんと、音楽はハレンチなものですから。例えばベルリオーズの『幻想交響曲』なんて、ベルリオーズ本人がストーカー並に好きになってしまった女性へのハレンチ願望を曲にしたようなクレイジーなものですしね。

sdsc_2647姫野:なるほど。

結月:ところがハレンチむき出しにしちゃ駄目なんです。ハレンチを美的に昇華させて、ひとが聴いて感動するものにしなければなりません。人間の生々しさを昇華させることが芸術です。

姫野:ハレンチは否定しちゃいけない?

結月:当然です。人間はみんなハレンチですから。ひとには言わない、見せないだけでハレンチなこと、みんなやってるじゃないですか。そこにドラマの源があって、そこから音楽が生まれてくる。そして、それをバイオリンで奏でる。バイオリンを弾くって、自分を含めた人間を、もっと言えば人類を共有することだと思うんです。大げさに聞こえますが、だからこそ感動がある。失恋した時の気持ちとか、恋焦がれる胸のやるせなさとか、不運が続いたあとの大きな歓喜だとか、人間ならわかることを感じて、それを表現するからおもしろいんです。それが体感できるようになればバイオリンは続きますよ。ただ表面的に憧れるだけだと、演奏技能という現実を超えられません。

姫野:なるほど、バイオリンを続けるには憧れだけでなく、人間のハレンチさを共有して、それを音にすることがコツというわけですね?

結月:数えきれない曲があって、それらすべてがオリジナルで同じものがない。つまり、それだけ人間の感情が無数に描かれているのが音楽なんです。それをバイオリンで弾くことで他者の心がわかるし、そのひとの気持ちになって音を出す。そしてひとに伝える。これはやってみるとおもしろくてたまらないです。

姫野:あと他にコツってありますか?

結月:コツではないですけど、愛ですかね。

姫野:愛?

結月:わたしはオルフェ銀座に習いに来てくれるひとを愛しているんですよ。だって、たくさんあるバイオリン教室からここを選んでくれて、ちゃんと通ってくれるんですから。そんなひとのことは愛しちゃいますよ。生徒のほうはわたしをどう思っているか知りませんけど、でも、どこか心通じ合ってるところはあると思います。そんな関係があれば、長く続くんじゃないですかね。

姫野:では、バイオリンを続けるためにはハレンチと愛ということで。

結月:そのまとめ方もどうかと思いますが、それでいいですよ。ハレンチと愛です。はい。

(インタビュー・文 姫野哲)

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